2022年12月4日日曜日

舟越さんのマリア様


 左は田沢湖畔に建つたつこ像、右は岩手県立美術館の聖セシリア像です。いずれも舟越保武さん(1912年〜2002年)の作品ですが、たつこ像に手を合わせたくなる理由がやっと分かりました。

 舟越さんは1912年に岩手県で生まれ、学生時代を東京で過ごします。戦争で盛岡に帰り多彩な活動をしている中、1950年に長男が急死。これを機に盛岡のカトリック四ツ家教会で家族全員が洗礼を受けました。たつこ像に愛や慈悲を感じるのは、舟越さんの信仰や宗教観から当然のことだったのです。もしかしたら、たつこ像も聖セシリア像も、舟越さんにとってはマリア様だったのかも…。

 ところで、舟越さんのエッセイ集「巨岩と花びら」に、たつこ像を制作する時の逸話が記されています。少し長くなりますが掲載します。

 「私は郷里の盛岡から田沢湖へと仙岩峠を車で越えた。毎年、春には雪のために荒れた峠の道で、あちこちに道路工事の作業の人が働いていた。中には女の人も、すげ笠をかぶって男たちと一緒に働いていた。その中の一人の娘さんを車の中から見て、これだと私は思った。ほんの数秒間の出来事であったが、あれこれ迷い探していた“たつこの顔”を、そのすげ笠の下に見た。峠の道で毎日働いていて、何故こんなに美しいのだろうと私は不思議でならなかった〜」。

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