大好きな武藤鉄城先生(考古学者・民俗学者)が、秋田郡邑魚譚で〝蟹の恩返し〟 という角館の昔っこを書き残しています。
ある村の長者殿に一人の娘がいました。娘は毎日の食事の後、家の前の小川で食器を洗うことが習慣です。その小川には多くの沢蟹が棲んでいて、ご飯のオコボレを食べて生きていました。さて、この村の近くに大きな沼があって、毎年わかい娘を沼の主に人身御供で捧げる決まりがありました。そうしないと田畑が荒れて作物ができません。ある年、その人身御供に長者殿の娘が選ばれて…。娘は悲しみながらも受け入れ、白装束に身を包んで棺おけの中へ。村人は娘が横たわった棺おけを沼の畔に運び逃げ帰りました。その夜の丑満時、急に生くさい一陣の風が吹き、何やら恐ろしい気配が近づいて来ます。娘は生きた心地がしません。そして大きな何かが棺おけをグルグル巻にして、ついにメリメリと壊しながら娘を襲おうとしたのです。それは目玉を爛々と輝かせた大蛇でした。
ちょうどその時です。どこからか沢蟹がワサワサ寄せて来ました。真っ黒いかたまりに見えるほどの数です。そして一斉に大蛇の鱗の間に潜り込んではハサミで肉を切り刻みます。大蛇は苦しさのあまりドッタンバッタンのたくり廻り、とうとう動かなくなりました。沢蟹に助けられ、娘は無事に帰ることができました。
※一部は読みやすく現代語訳しています。


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