さて、今日の足澤先生の講話後、意見交換の場面を持ちました。ここで国土交通省国土政策担当の舘逸志官房審議官から質問がありました。「足澤先生がふれた診療情報提供書(病歴書・紹介状)は、例えば東京から玉川温泉に来たいと考えた方々が、都内の通院先医師に書いてもらえば良いと思うが、それは仕組みとして整っているものか」…。
この質問から、様々な問題が見えて議論になりました。自分が足澤先生に代わりに、幾つかの現状をお話ししましたが、その概要は、
1.例えば田沢湖病院に温泉療養を指導する医師に着任いただいたとして、この先生が「あなたの症状だったら、○○温泉の泉質が効能が期待できる」とか、「この症状だったら岩盤浴が良い」とか、向かうべき温泉を紹介したとする。しかし日本は温泉療養が医療行為とは認められていないので、医療保険は適用にならない。市役所で市立病院に医師を採用した場合、診療収益を上げて病院事業を継続する公営企業の原則から言えば、収益をもたらさない医師に給料を払うことになり、ただ病院の経営を圧迫するだけになってしまう。これでは足場の病院経営が成り立たない。
2.少しでも病院の収益を上げるとすれば、保険外(自由診療)で処方箋を医師が発行し、これを発行したことで手数料を患者本人が全額支払う方法などが考えられる。
などです。
さらに猪熊茂子先生(日本温泉療法医会会長)や、出口晃先生(小山田記念温泉病院内科部長)、三友紀男先生(温泉と健康フォーラム会長・仙台社会保険病院名誉院長)がこの議論に参加し、保険適用行為と提要外行為を整理して考えることが必要とのアドバイスを受けました。
中嶋看護士の講話を終えて部屋を出ようとしたとき、足澤先生から興味深い論文の写しをいただきました。先ごろ温泉科学に掲載された「湯治目的の重症患者が集う温泉地と地域医療体制の協調に関する研究」(加藤礼識・野田龍也・今村知明共著)です。この論文は奈良県立医科大学に所属する3氏が仙北市の医療実態を調査し、特に温泉と医療の関連や課題点が的確に分析されています。
ザックリと紹介します。
~玉川温泉は療養型温泉であるのに対し、乳頭温泉や高原温泉、水沢温泉などは観光型温泉との認識が強いこと。急病などに対応する地上の救急搬送力は脆弱。広域消防の救急車移動では、例えば玉川で患者が発生した場合、西木消防分署、田沢湖消防分で駆け付けるが、西木からは38.5キロ、田沢湖からは42キロあり、救急要請してから病院収容までは、最短で1時間、長いと3時間以上を要する。空中搬送(ドクターヘリ)は平成23年から運用が始まっている。しかし悪天候や夜間は飛べない。田沢湖病院については、平成15年に新築をし、当時は6人の常勤医がいた。しかし平成16年の新研修医制度で大学に医師が引き上げたり、開業したりが続き、現在は3名の常勤医となっている。平成18年には田沢湖病院は救急指定を返上している。以降、仙北市も懸命に医師確保にあたるが目覚ましい成果は得られていない。もはや単独自治体としての努力は限界にある。そんな中で市は「医療・農林ツーリズム特区」を国家戦略特区に申請した。時代の要請もあり、湯治医療に注目が集まっている現在、ガンに効能があると言われる玉川温泉は重傷度の高い湯治客が集まるようになっている。医師不在の地区に最も医療を最も必要とする人たちの集合体があることになる。今後は特区の制度を活用しながら、市役所・病院・温泉宿・湯治客の間で、その関係性に各々が関与し合い、協調関係を構築する必要があると考える。~とても示唆に富んだ論文です。具体策を検討します。
※写真は玉川温泉岩盤浴地の様子
奈良医大の加藤です。
返信削除コメントさせていただきます。
市役所で市立病院に医師を採用した場合、診療収益を上げて病院事業を継続する公営企業の原則から言えば、収益をもたらさない医師に給料を払うことになり、ただ病院の経営を圧迫するだけになってしまう。これでは足場の病院経営が成り立たない。
以上の発言に関してですが
田沢湖地区は年間数百万人の観光客が訪れる観光地です。宿泊者数だけでも凄い数になります。秋田県下でも最大級の観光地が無救急地区である。と言うのが問題なのです。
これは、病院診療単体での収益性で考えるべき問題ではなく、観光地の安全性を担保すると言う目的もあるのです。
救急医療アクセスが困難だから、あの地域に観光には行けないね!ということになると、病院の収益性どころの問題ではなくなります。町の観光業が直接的に打撃を受け、町の収益が悪化するのです。
観光収入を維持・増大するためにも、無医地区対策を取らなければなりません。
目先の医療支出を抑えることで、町の観光業界にダメージを与えてはいけないの、玉川に公設の診療所を置くことを考えるべきです。
お手紙をありがとうございます。改めて加藤先生はじめ皆さんのご指摘に、心から感謝を申し上げます。加藤先生のお話しはごもっともで、私をはじめ多くの関係者の思いと同じことを最初にお伝えしたく返信しています。玉川温泉(新玉川温泉を含む)の相談室を医療機関として再開設することも選択肢です。加藤先生は詳細に現地調査をされ、市の医療体制や現状も理解されているので、市内にある様々な議論もご承知のことと思います。ベースになる田沢湖病院の経営が苦しいのも実情です。
返信削除昨日は、温泉療法医会の東北地区研修会に参加させていただきました。現状では温泉療法に関し、医療保険の適用はかなりハードルが高いと言うことを改めて認識しました。制度化は今後も粘り強く実現に向けて活動します。同時に早期に年間30万人以上が訪れる玉川温泉で、具体に医療を担保する対策を講じたいと考えています。その際、市の財政的体力を熟慮しなければいけないことをご理解ください。継続性がなければ責任が果たせませんし…。
重ねてご指導をお願いします。