2025年7月13日日曜日

神隠し


 夫婦は声の出る限りに娘の名前を呼びました。間もなく日没です。嫌な予感がよぎります。ふもとの集落が大騒ぎになったのは、血相を変えて夫婦が山から降りてきて間もなくでした。さっそく捜索隊が組織され…。

 畑に近い山を中心に多くの人が探し回りました。ところが、いくら探しても探しても、どこにも娘の姿はありません。もう日没です。夜には捜索もさらに困難になります。みんながそう考え始めた時でした。「帰ってきた、帰ってきたぞ」と暗くなった山道の向こうから声が聞こえました。夫婦はその声に駆け寄り、娘を抱きしめることができました。

 娘を見つけたのは、奥山の木材を切り出す仕事に行っていた男でした。みんな娘がどこにいたか聞きました。男が答えました。「奥山の作業場の近くに開けた場所があるだろう。あの平地の大岩の上に座っていたんだ。誰かと話しをしていたようだった」と。その大岩は大人も登ることができないような勾配です。そこで話しをしていた相手は…。


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